三陸海岸の景観と津波の伝承
森・川・海の自然・景観と災害
ストーリーの構成
(1)浄土ヶ浜と三陸海岸の誕生
(2)三陸海岸の景観と自然
(3)津波の記憶と伝承
浄土ヶ浜と三陸海岸の誕生
中生代白亜紀以降、北部北上山地の一部は沈降して浅い海となり、この浅海で1億1千万年前(中生代白亜紀前期)に宮古層群が堆積しました。宮古層群は、1899(明治32)年に日出島海岸で採集された化石がきっかけとなり、白亜紀前期に堆積した地層の標準的な地層と定義されました。「崎山の蝋燭岩・潮吹穴」や「日出島」、「三王岩」は、この宮古層群の地層で形成されています。「摂待大島」では、地層からサンゴや巻貝、アンモナイトなどの化石を産出します。また、「浄土ヶ浜」の白い岩は、4千4百万年前(新生代古第三紀)に地下でマグマが上昇してできた流紋岩です。マグマが冷え固まるときの節理(割れ目)にそって、波などの侵食が進んで形成された奇観です。
260万年前(新生代第四紀初頭)に北上山地は隆起に転じ、寒冷な氷河期と温かい間氷期が10万年周期でくり返され、海水面変動が連動して北上山地の侵食が進みました。三陸海岸の北部では、波の侵食による平らな部分が隆起して、陸上に海岸段丘(テラス)や崖が何段もできました。三陸海岸は宮古湾を境界に大きく変化し、北部は切り立った断崖が直線的に続き、南部は河川の侵食による入り江が深く入り込んだリアス海岸になっています。こうした三陸海岸の多様な地形、大地の活動の痕跡が確認できる地層の露頭が、三陸ジオパークのジオサイトになっています。(資料編4三陸ジオパークサイト一覧参照)
接待大島の化石

潮吹穴
三陸海岸の景観と自然
三陸海岸は、東日本大震災により被災した三陸地域の復興に貢献するため、2013(平成25)年5月に三陸復興国立公園に指定されました。自然が残された島や海岸は海鳥が繁殖し、「日出島クロコシジロウミツバメ繁殖地」と「佐賀部のウミネコ繁殖地」が文化財に指定されています。また、ハマヒルガオやハマエンドウなど浜特有の植物が楽しめます。重茂半島の十二神山は、三陸中部で海岸に近い山地のブナ原生林の植生が、森林と谷のセットでよく残されています。「チョウセンアカシジミ」は、大陸と日本列島が陸続きだった2万年前の氷河期に移動してきた蝶で、大陸と日本列島が海に隔てられた後も生き残ったと考えられています。
2019(令和元)年6月に全線開通したみちのく潮風トレイルは、三陸海岸の雄大で美しい自然景観を旅する長距離自然歩道です。本市では、田老地域から浄土ヶ浜を通り、重茂半島を越えて山田湾に抜ける約100キロメートルのトレイルコースが設定されています。

左賀部のウミネコ繫殖地
チョウセンアカシジミ
津波の記録と伝承
三陸の海は、自然の恵みを与えてくれる一方で、くり返し津波となって襲いかかってきました。三陸沖では海洋プレートが大陸プレートに沈み込んで、その境界が日本海溝や千島海溝となっています。プレートの沈み込みによって、北上山地は隆起を続け、プレートのひずみによって地震が発生し、海底で津波が引き起こされます。1611(慶長16)年の慶長津波から2011(平成23)年の東日本大震災までの400年間に、被害が記録された地震津波は15回を数え、本市はおよそ25年に一度津波に襲われてきました。
本市の中でも太平洋に面した田老地域と重茂地区では、1896(明治29)年と1933(昭和8)年におきた三陸地震津波の被害は甚大でした。田老地域では、昭和津波の翌年から防潮堤の工事に着手し、高さ10m・全長2.4キロメートルでX字型の大防潮堤を築き、「津波防災の町」として行政と住民が一体となって避難訓練や体験談の記録に取り組んできました。明治津波以後には「大海嘯供養碑」といった犠牲者を弔う石碑が各地に建立されました。わずか37年後の1933(昭和8)年に再び大津波に襲われ、「三陸は津波の常襲地帯」と言われるようになり、重茂地区姉吉の津波碑のように「ここより下に家を建てるな」といったメッセージが刻まれた、大津波記念碑が建立されました。1948(昭和23)年のアイオン台風や1961(昭和36)年の三陸フェーン大火に関する石碑も建立されています。
東日本大震災後には、甚大な被害を被った田老地域で居住地が高台に移転し、たろう観光ホテルと防潮堤の中心部が津波遺構として保存されています。2012(平成24)年から学ぶ防災ガイドが活動を開始し、津波遺構を巡りながら津波災害の教訓や防災意識の向上を語るガイドツアーを行い、国内外から約20万人(令和4年2月)が参加しています。「昭和三陸地震津波写真乾板」は、田老地域の被害状況を地区住民が撮影した原板で、東日本大震災で流失しましたが、奇跡的に所有者へ返還され文化財指定に至りました。

昭和三陸地震津波写真乾板

昭和三陸地震津波写真乾板
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更新日:2025年09月21日